2018年06月04日

タネとラジオ

情報戦が革命の勝利を決める?

「恐れながら天朝様に敵対するから加勢しろ」という言葉とともに立ち上がり、日本国中央政府に対して反乱を起こした秩父の農民、大野苗吉は仲間とともに銃火の中で死んだ。数千人の農民が蜂起しながらも三日天下で終わり、わずか10日で鎮圧された1884年 (明治27年)の秩父事件である。秩父から佐久にまで転戦を続けた反乱軍はいまの小海高校の近くで政府軍の圧倒的な兵力の前に潰えた。

 一方で、たった70人の仲間とともに立ち上がり、亡命先のメキシコからオンボロヨットで祖国に上陸。中央政府に対して反乱を起こしたフィデル・カストロは一時は12人にまで仲間を撃ち減らされながらも、ゲリラ戦を展開し、最終的に政権奪取に成功する。1959年1月1日のキューバ革命である。いずれも、資本主義によって貧困に陥った農民たちの暮らしを改善するためのやむなき造反という点では共通していたが、前者は失敗して後者は成功した。それは、なぜなのか。情報が大きい。

ペテンがばれたフィデル・カストロの死亡説

 当時、キューバの国営ハバナ放送は「反乱軍は全滅した。フィデル・カストロが反乱軍のリーダーであったが既に死亡している」と国内に報じていた。国民の多くは独裁者フルヘンシオ・バチスタの暴政にウンザリしていた。そうした人々にとっては反乱軍のリーダーとしてバチスタ政権に戦いを挑む「フィデル・カストロ」は「希望の星」だった。表立って支持はできないにしても、反乱軍に対しても陰ながら拍手を送っていた者も少なくなかった(1)。それだけにフィデルの死は国民を落胆させた。けれども、実際のフィデルは死んだところかピンピンしていた。反乱軍が健在であることを宣伝する必要がある。そう考えたフィデルは、著名な外国人ジャーナリストを探し出し、アジトであるシエラ・マエストラのゲリラ本部にまで連れてきて、世界に発信する戦略を画策する。

2018060404New-York-TimesS.jpg ちょうど、ニューヨーク・タイムズの記者のハーバート・マシューズがハバナで休暇を取っていた。フィデルの意向を知ったマシューズは「これは世界的なスクープになる」と飛びつく(1)

 1956年2月17日。フィデルはマシューズと単独会見を行ない、24日にはニューヨーク・タイムズによってそれが報道された。部下を叱咤激励しゲリラ戦を指揮している写真もデカデカと出てしまう。ここでフィデルが死んだと述べて来た中央政府の嘘はばれた。

 情報戦としていかにマスコミを利用すればいいのか。そのことの重要性をフィデルは熟知していた(1)

ラジオ・レベルデ登場

2018060401che-radio.jpg 次に、フィデルら革命軍が考えたのはより濃密な情報発信だった。当時、キューバ・メディアのほとんどはバチスタ政権によって統制されていたのだが、半世紀以上も前のことだ。ネットもなければラインもなく、ましてはテレビも普及していない。情報発信の主力ツールはラジオだった。ならば、ラジオを使おう。このことを発案したのは、革命のもう一人のヒーロ、チェ・ゲバラだった。1958年2月24日、わずか20分であったが、記念すべきラジオ放送『ラジオ・レベルデ』の電波の第一報が革命軍のアジト、シエラ・マエストラの山中から発信される。

 カストロは情報戦の重要性を理解していたが、ラジオ放送がキューバ人民に語りかける唯一の方法であることを理解していたのはゲバラだった。

「こちらはラジオ・レベルデ。シエラ・マエストラの声、毎日5時と9時にキューバ全土に20メータ周波数帯で放送されています」

 古いアマチュア無線送信機から放送される電波は、米国の傀儡政権にすぎないバチスタ政権とフィデルたち反乱軍との戦いの状況をほぼ24時間、放送し続けた(2)

2018060402che-radio.jpg 嘘とペテンで塗り固められた中央政府の大手メディアに対して、山岳地帯に立てこもったゲリラたちから発信される電波「ラジオ・レベルデ」は真実を告げるメッセージだった。当時710万人しかいなかった国民たちの間に深く真実は浸透していく。

「真実を伝えることの重要性が、今ほど感じることはない。すべてのマスメディアは虚偽ニュースを流し続けている」

 2018年、キューバの『ラジオ・レベルデ』は60周年を祝ったが、同放送局は、改めて同局の歴史上の意義をこう主張した。

「我々の取り組みが従うべき原則は、いつも真実を伝える事だった。それが我々に信頼性を与えた」(2)

真実の声を伝えることの重要性

 いったい何が言いたいのかというと、このブログもゴミのようなささやかな反乱、抵抗でしかないのだが、真実ほど大切なものはないし、真実はいずれ政権転覆とまではいかないまでも、政府の政策転換につながるかもしれないということだ。そして、60年も前の、かつ、キューバという地球の反対側でのラジオ放送を話題にしたのにはわけがある。

 SBCラジオ(信越放送)の「Jスポット」というコーナーで、種子法廃止の問題を取りあげられ、4月30日に第一弾ということで山田正彦元農業大臣がインタビューに登場したのだが、本日、6月4日にはその第二弾ということで種苗法の改正問題が放送され、「日本の種を守る会」の事務局アドバイザー、印鑰智哉氏が出演したのだ。

 同放送の内容は1週間限定なのだが、モーニングワイド・ラジオJのサイトでネット上でも聞くことができる。ということで、放送された内容の要旨を私なりにテープ起こししてみた。

種子の自家採取を原則禁止、農家の自家採取を例外に

 まず、「5月15日の日本農業新聞の一面で、海外に日本の種子が流出するのを防ぐためにも「種苗の自家増殖 原則禁止へ転換・法改正を視野に」という見出しで記事が掲載されたことについて、生田明子アナウンサーが伝える。

 この新聞記事は私も読んでいたのだが、基本的に種子の自家採種が禁止になっていくという。もし、そうであるとすれば、大変なことだ。

 生田アナウンサーは「ヨーロッパ等では企業が開発した新品種の種は、企業の開発権、知的所有権を守るために、原則自家採種禁止になっているその流れを受けてこうした動きがでてきたのだと説明する。そして、印鑰智哉氏はこう語る。

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「まだ法律的に、この改正は農水省が検討している段階で、別に法案になっているわけではないんですね、ただし、この種苗法は、1998年に大幅に改正されて、企業が開発した開発権、知的所有権を守る法律になっているんですね。ですから共謀罪の対象にもなるんですね。つまり、この種いいからみんなで共有しようぜってやったら、ふつうの種なら可能なんですけど、例えば企業が開発した種の場合は、その企業の知的所有権を侵害してしまうと。だから共謀罪になってしまうという話なんですね。今も、野菜の種の多くは、自家採種できないものが多いと思うんですけれども、今後出てくる新しく出てくる種は、全て原則自家採種禁止で進みますので、さらに自家採種できないものが増えていくということになると思います。

 基本的に、新しく開発された品種がターゲット。ですから伝統的にずっと家族代々受け継いできたような種が禁止になるというものではないはずです。これも法律の運用などでどこまで禁止するのかはわかりませんが、基本的には伝統の主に関しては例外として認められるようにはなると思います」

「種を独占するってことで動いているのは、実は大きな多国籍企業なんですね。そして非常に大きなしかも化学薬品を作っているような会社、つまり農薬を作っている会社が手掛けていくケースがほとんです。これは、食べ物に、農業をする時に農薬を必ず使うようにする。結局、食を独占することで、それを利益の源泉にする。

 本当は種というのは、歴史的に農家の方が育んできたみんなの共有財産だったわけですね。ところが、こういった法制度が変わっていって、種というのは、企業のものであるというふうに、種のあり方がかわっていってしまう、そのような変化が起きているっていうことは非常に大きなことだと思います」

 印鑰智哉氏のインタビューを受けて、生田アナウンサーは、次のようにきれいに整理する。つまり、これまでの種苗法は、原則として、農家が自家採種することを認め、禁止の方が例外として扱われてきたのが、原則として自家採種を禁止して、自家採種の方が例外として扱われるようになっていくのだと。そして、その背景には、種子を企業する開発の利益の方を重視したい思惑があるのではないかと懸念する。

国際家族農業年の専門家を活用しない日本国中央政府

 実は印鑰氏はもうひとつ重要なことをラジオで言っている。国際家族農業10年である。

「今世界は、日本とは真逆の方向をむいているといってもいいぐらいだと思います。世界中で小規模家族農業を発展させるための取り組みをやっていこうということで、これからの食は、やはり小さい規模の家族農家が主役ということで世界的に動いています。日本はそうではなくて大規模化して企業が参入すればいいっていう、強い輸出できる農業をやればいい、そういう方向ばっかりを今の日本政府は向いているところがあると思う。世界的な動きはむしろ逆でして、家族農家をいかに支援していこうかという方向が今強くなりつつあることを是非お知らせしたいと思います」

kae-sekine.jpg「国際家族農業年(IYFF2014=International Year of Family Farming 2014)」といっても知らないという人がほとんどなのではあるまいか。実際、私も知らなかった。その重要性を知ったのは、2017年9月に浜松市春野町で開催された「ラブファーマーズカンファレンス」で印鑰智哉氏と愛知学院大学の関根佳恵准教授の講演を聞いてからだ。

 そして、これが非常に重要だと言うことで10年伸ばすことにした。これを略して「IYFF+10」(プラス・テン)と呼ぶ。インターネットで「英語」のサイトにこのキーワードを入れてみれば、膨大なサイトがヒットしてまさに国際的に話題になっていることがわかる。けれども、これが日本ではほとんど話題にならない。テレビも報道しなければ新聞も書かない。

「ですから、なんとかこれを国内でも周知したいと思って、こうしたサイトを仲間と作ったのです」と関根佳恵准教授は、小規模・家族農業ネットワーク・ジャパンについて言及する。

 ちなみに、関根佳恵准教授には農文協から出ている「人口・食料・資源・環境 家族農業が世界の未来を拓く」(2014)という著作があるのだが、まさにこれは「小規模家族農業」をテーマにしたものだ。とはいえ、実を言えば、これは関根准教授が書かれた国連世界食料保障委員会専門家ハイレベル・パネルのメンバーのリポートの「翻訳書」である。関根准教授が海外の研究者たちとともに英語で執筆した著作が日本語にもしておく意味があるということで後追いで「日本語」で翻訳出版されたのだ。

 今、関根准教授はFAOで研究をされておりローマにいるのだが、フランス語に堪能な同准教授は「Néolibéralisation de la politique agroalimentaire au Japon et contradictions des modèles agricoles」という講演をしたり中央アジアの人々を対象に「Использование наименования места происхождения товара в эпоху глобализации- На примере преф」という講演をしたりと精力的に国内外で活躍されている。こうしたグローバルに評価された学術研究者を持っているということは本当は日本国民にとっては有利なことだ。日本の文化事情をきちんと海外に翻訳できる逸材を国内に手持ちカードとして持っているということはまことに心強いと一国民としても素朴に思う。

 にもかかわらず、奇妙なことに日本国中央政府は、例えば、関根准教授をキャップにして日本における「小規模家族」のあり方を検討し、これを世界の状況、すなわち、グローバル・スタンダードと整合性を図ろうとする動きをしようとはしない。それどころか、対応すらしようとしていないように思える。

 例えば、国際家族農業年については、今年3月23日に開催された第196回国会農林水産委員会で、川田龍平参議院議員が質問している。このサイトでも答弁が読めるので抜粋してみよう。

「昨年の末、国連は、来年からの十年間を国際家族農業の十年と定めました。この十年間の日本における意義を御説明いただけますでしょうか」

齋藤健農相 農林水産省としては、家族農業経営についても地域農業の担い手として重要だと考えている。引き続き、食料・農業・農村基本法に基づいて、家族農業経営の活性化を図るとともに、様々な施策を講じていく。

「私はこれまでの施策が不十分であったという前提で、これからの十年、これからの十年、どのような新施策を打ち出していくのかを聞いているわけですが、大臣、いかがでしょうか」

齋藤健農相 小規模の農家や家族経営農業に対しては、今までも例えば、経営規模の拡大に一定の制約がある中山間地域についても経営を成り立たせていける施策を講じてきた。こうした政策をこれからもしっかり継続をしていく。

「継続というのはわかるんですね。これからの十年、さらに2019年からの十年をどのように考えているのかということで、これからのことを是非御答弁いただければと思います」

齋藤健農相 これからも小規模農家や家族経営農業に対して、その時々の状況に応じて、この趣旨に沿って政策を展開していきたいと思っているが、我々が講じている政策についてもこれはしっかりやっていかなければいけない。

「先ほどから足りないという言葉も出ていますとおり、やっぱりこれまでのが不十分であるという認識に立っていただいて、やっぱりこれまでやってきたものを継続ということではなく、新たにやっぱりつくっていただきたいと思います。そういった決意を是非表明していただければと思います」

 関心がある方は、その後の答弁をみていただれば良いのだが、要するに川田議員が質問したことに対して、のらりくらりと答弁するだけで小規模家族農業支援に対応する気がさらさらないことがわかる。その一方で、種子法の廃止や種苗法の改正が国際的なトレンドだとしてなされてしまう。けれども、それは国際的なトレンドなのではなく、ただ、世界の中でも数少ない1国、それも、孤立化しつつある米国の意向、なおかつ、トランプ大統領とは対立する米国内でのグローバリストの意向に沿っているだけなのではあるまいか。こうした状況を何よりも憂えていたのが米国の思想家、スーザン・ソンタグ(Susan Sontag, 1933〜2004年)なのに、米国にソンタグ、いや忖度(そんたく)してしまっているとくだらないダジャレのひとつも言ってみたくなってしまいたくなる。

2018060403S.jpg 例えば、この図をご覧いただきたい。印鑰氏が作成した資料なのだが、2010年の国連の生物多様性年に応じた生物多様性条約の批准国は200に近い。そして、FAOの食料及び農業のための植物遺伝資源条約も130カ国程度が批准している。これに対して種苗法改正のベースにあるUPOV条約は条約とはいえ、50カ国程度しか批准していない。グローバルな視点から見れば、家族農業の種子資源を守る条約批准国の方が、企業の種子の権利のための条約批准国の倍以上も多いのだ。にもかかわらず、食料及び農業のための植物遺伝資源条約に対応した法律は法制度化されず、国際家族農業年の「+テン」にも対応せず、種苗法改正にのみ力を入れるに日本国中央政府。そして、そのアンバランスな有り様を一切報じようとはしない大手マスメディア。こうした状況を見るにつけ、「生田アナウンサー」が言う「国民の健康よりも企業利益を重視しているのではないか」という懸念を私もふといだいてしまうのである。

編集後記

 関根准教授は大手マスメディアが報じない「小規模家族農業」が国際的には主流なのだ、という話を講演等でされたときの感想をこうもらす。
「一番、それを聞いてホッとされるのが地域のおばあちゃんやおじいさんなんですね。自分たちがやってきた農業はまちがっていなかったんだと」
 関根准教授の講演や発言に説得力があるのは、アカデミックなバックボーンもさることながら、それがある種の意図を持った旧左翼的なアジテートではなく、ただ真実を淡々と語っていることにあるであろう。その意味で、生田アナウンサーの発言も説得力があるように思える。リスナーの1人として、今の日本で流れている「ラジオ・レベルデ」の電波に声援を送りたいし、その電波をこの信州という地で受信できることを誇りに思い感謝したい。
(2018年6月4日投稿)
【画像】
フィデル・カストロ氏の画像はこのサイトより
チェ・ゲバラ氏の画像はこのサイトより
ラジオの前のチェ・ゲバラ氏の画像はこのサイトより
【文献】
(1)2017年4月21日「カストロとゲバラ〜8」どーか誰にも見つかりませんようにブログ
(2) ラテン・アメリカの革命的大衆闘争


posted by fidel at 21:57| Comment(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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