2019年08月08日

気候変動を回避するために食と農の見直しを

欧州の異常熱波

 世界気象機関によれば、この7月は、これまで最も暑い7月の記録が更新された。しかも、その前の6月も記録的に暖かかった。多くの国で温度記録が破られている。フランスやオランダでは少なくとも10回の熱波に襲われたのだが、ピーク時には40℃以上に達した。イギリスでも7月25日に38.7℃と記録的な暑さだった。場所によってかなりのバリエーションがあるとはいえ、研究がなされたどの場所でも、科学者たちは気候変動がなければ1.5〜3℃は涼しかったはずだと言う。排気ガス、火力発電所の煙突、森林の破壊等、人間由来の二酸化炭素の排出が原因だと指摘する。2019年7月のヨーロッパの記録的な熱波は1000年に一度の出来事なのだが、人間活動の原因によって100倍も起こりやすくなっている。そう科学者たちは試算する。

Otto-Friederike.jpg しかも、この歴史的な熱波の記録もすぐに破られる。「数年で破られるはずです。私たちがヨーロッパの熱波で目にしていることは、すべての気候モデルが変化を過小評価していたということです」(2)

 オックスフォード大学のフレデライク・オットー博士は言う。ノルウェーでもこれまでで最も暑い日が記録された。夕暮れから夜明けまで20℃以上もある「熱帯夜」がノルウェー北部の20以上もの地域で経験されている(3)

 夏の熱波はかなり危険で致命傷となりうる。けれども、2、3週間後に死亡率の数値が分析された後でだけそれが知られる。多くの人たちの関心を呼ばない恐れがある。それだけに、熱波のいち早い正確な予報と効果的な非常事態の計画がますます重要になってきている。そして、中央ヨーロッパと東ヨーロッパでは旱魃のリスクがより深刻化している(2)

ヨーロッパやグリーンランドの氷河が溶けシベリアでは山火事が発生

 異常はアルプスの山でも起きている。温暖化によって氷のコアが溶けだし、マッターホルンの4480mのピーク下の斜面も雪崩れや地滑りの危険性があると当局は警告する。フランスのモンブランでも湖の氷が溶け始めている。アルプスの氷河を研究する氷河学者、マッテヤ・ハース博士は、最近の二度の熱波でスイスの氷河では約8億t減ったと指摘する(3)

 氷河が後退しているのはアルプスだけではない。グリーンランドには世界で2番目に大きな氷床があるが、衛星データから縮小していることが明らかになっている(3)。これまで通年も固結してきた氷床が異常な高温で溶けだしている(2,3)

Ruth-Mottram.jpg デンマークの気象学者、ラス・モットラム博士によれば、グリーンランドの氷はこの7月には1970億tも減少した。

「7月31日の溶融のどの年よりも最大の一日となりました。これはこれまでに最高のものです」と、モットラムは言う。

 グリーンランドの温度は、標準を越えてこの7月末には10℃以上だった。氷床の頂上は海抜3200mもあるが、10時間も氷点下以上だった。そして、この傾向は速まっている。

Glacier.jpg 巨大なペテアマン氷塊の溶解も高温によって速まりそうで、少なくとも2つの巨大なクラックが近年確認されている。この氷山は、ディスコ湾のイルリサットに浮いている。

 ペンシルバニア大学の地理学者、ルーク・トルセル准教授は「とても珍しい」と指摘する。

Luke-Trusel.JPG「過去には非常に珍しかったことがあたりまえになってしまっています。北極は、20、30年前よりもずっと温暖化しています」と、トルセル准教授は言う。

 氷コア分析法からは、この融解レベルが、100年、おそらく1000年に一度しか起きないレベルにあることが示されている(3)

 カナダの北極圏でも世界平均よりも2倍も速く温暖化しており、地方住民は記録的な山火事に苦しめられている。永久凍土層も予測よりも数十年も早く溶け出している。カナダの最北端、ヌナブト準州のアラートでは7月に21℃の最高気温が記録された。地元の気象学者によれば、これほど極に近い所で、こんな気温は見られなかったと言う(3)

FireS.jpg シベリアの広大な地域でも山火事が起きた。NASAの衛星画像からはロシア上空に煙の柱が生じていることが捉えられている(2)。ロシア政府は、シベリアの4地方で非常事態を宣言した。ベルギーの広さにも及ぶ山火事の消化活動のため軍を派遣したという(3)

世界各地で生じている異常事態

 国連事務総長アントニオ・グテーレス(1949年〜)は、2019年9月に特別気候サミットを招集する予定でもはや通常の季節とは隔たってしまっているとして、こう警鐘を発する。

「我々はいつも暑い夏を乗り切ってきた。だが、これは我々の青春時代の夏ではない。あなた方の祖父の頃の夏でもない。取り返しがつかない気候混乱を防ぐことは、我々の命のためのレースだ。勝つことができ、かつ、勝たなければならないレースだ」

 世界気象機関も2015〜19年がこれまでに記録された最も暖かい5年間であるとし、ペッタリ・ターラス事務総長もこう語る。

「ローカルでも国レベルでも世界レベルでも新記録が多数あり7月は気候史が書き直されました。先例なき野火が2カ月も連続して北極で荒れ狂い、かつては二酸化炭素を吸収していた原生林が荒廃し、温室効果ガスの火の源に変えてしまったのです。これは、SFではありません。気候変動の現実です。それは現在起きていることであり、緊急的な気候アクションなくしては将来、さらに悪化するのです」(2)

気候変動に関する政府間パネルの最新情報は食生活のチェンジを求める

 もう一度、まとめておく。

 この7月にヨーロッパを襲った熱波は1.5〜3℃も高かった
 この7月の世界気温は、産業化以前の同月より1.2℃以上も高かった
 北極海の氷の範囲は、7月に最低を記録した

 現在、ジュネーブでは気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が議論されているのだが、ガーディアンによれば、リークされた草案は、自動車、工場、発電所からの二酸化炭素の排出量をカットすることによって気候危機を解決しようとする試みだけでは、失敗する運命にあり、食料の生産方法や農地管理のやり方を変えない限り、グローバルな気温を安全なレベルに保つことは不可能だと科学者たちは警告しているという(4)

Bob-Ward.jpg「我々は、いま、危険な気候の臨界点に非常に近づいている。けれども、IPCCの最新のリークされたリポートからも明らかなように、その出来事を防ぐことは非常に難しい」

 グランサム気候変動環境研究所のボブ・ウォード政策ディレクターは指摘する。

 気候変動による豪雨、氾濫、旱魃の頻度や深刻さ、熱ストレス、風、海面上昇、波浪の増大によって、土地の劣化は悪化していく。そうリポートは警告するのだが、現在よりもかなり少量のカーボンしか排出されないようにより持続可能に土地が管理されなければならないことをIPCCの新リポートは強調する。

 例えば、排水計画を停止することで泥炭地を回復する必要がある。また、農地利用のあり方でもかなりの変化を求める。女性農業者をエンパワーし、農業サービスや市場へのアクセスを改善し、土地保有権のセキュリティを強化する。これらが必要だとリポートは主張する。

 さらに、IPCCのリポートは、食品廃棄物の削減とあわせて、メタン排出量を減らすためにも肉の摂取量を減らされなければならないと指摘する。

「全粒穀類、マメ類や野菜、ナッツや種といった健康的で持続可能な食の消費が… 温室効果ガス排出量を減らす大きな機会となる」

 ベジタリアンや野菜食に向けた大きなシフトが新リポートでは手段のひとつとして提唱されている(4)

地球を守るためには肉食系はご法度

 植物性食のライフスタイルをすれば、肥満、心臓病、2型糖尿病のリスクが減り、より健康になれる。けれども、肉食中心の食事を止めることにはさらに重要なわけがある。それが地球を救うことにつながるからだ(1)

 いま、人類は、増加する人口を養い、衣服を着せて、支えるため、氷凍していない地球表面の72%を利用しているのだが、同時に、農林業他の土地からほぼ4分の1の地球温室化効果ガスが排出されている。

 加えて、最も有力な温室化効果ガスであるメタンの約半分は牛と水田からもたらされ、森林破壊と泥炭の開発がかなりの二酸化炭素の排出をもたらしている。集約農業は、世界人口が100年前の19億人から77億人へと増加することを助けたのだが、そのインパクトで土壌侵食を増やし、地表の有機物量が減ったのだ(4)

marco-springmann.jpg オックスフォード大学の食の未来のマーティン・プログラムのマルコ・シュプリングマン主任研究員が、2018年10月に『ネイチャー』誌で発表した研究によれば、人口増加と西洋型の加工食品や肉中心の食事が続くと環境に対する負荷が2050年までに90%も増えてしまうという。

「プラネタリー・バウンダリーを超えてしまい、地球にとって欠かせない生態系が不安定化してしまいます」

 地球を健康に保つには、フードロスや廃棄物の量を半減するとともに、農法やテクノロジーを改善することが必要だが、シュプリングマン主任研究員は、植物性食へのシフトも必要だと指摘する。

 ロサンゼルスで植物性食品や持続性を研究する栄養学者、シャロン・パーマーは、この研究メンバーではないのだが、同じことを指摘する。

Sharon-palmer.jpg「異常気象がより頻発化し、気候変動の危険なレベルへとつながり、森林生態系や生物多様性の調整機能に影響が及びます。水質汚染は、海洋でのデッドゾーンにつながる。いま世界中が成長をし続けていますが、いまのような食事をしていれば、そのインパクトに地球は耐えられません。

 エネルギー、農地、水、産み出される汚染物質、そして、温室効果ガスの排出量。肉の摂取量を大きく減らし、ほとんどを植物性食にすることが、地球に対するインパクトを減らすうえで、最も効果的なことが、一貫して研究からは示されているのです」(1)

飼料作物を用いた牛肉はマメの100倍も地球を壊す

 動物性食品の生産が食と関連した温室効果ガスの排出を引き起こしていることは意外に思えるかもしれない。けれども、シュプリングマン主任研究員の研究からは、それが、農業系の放出量の78%にまで及んでいることが明らかになっている。

 まず、牛はそれ以外の家畜と違って「飼料変換効率」が低い。

「牛を1kg太らせるには、平均して10kgの穀物が必要です。その飼料穀物を生産するのにも水、農地、肥料が必要です」

 重量比でいうと牛肉は豚肉や鶏肉の約10倍も温室効果ガスを放出する。そして、豚肉や鳥肉はマメよりも約10倍も温室効果ガスを発生させてしまうのだ。

「ですから、牛肉は、マメ類の100倍以上も放出するのです」とシュプリングマン主任研究員は言う。

 飼料作物を生産することで、淡水資源や農地への負荷がかかり、窒素やリンも施肥され、それが海洋を汚染する。加えて、反芻動物であるため、食物を消化する際にその胃で温室効果ガス、メタンを発生させる。一方、植物も育つうえでは環境からの資源を必要とするが、その量はかなり少ない。

 シュプリングマン主任研究員によれば、植物性食のライフスタイルにチェンジすれば、フードシステムからの温室効果ガスの排出量を半分以上も減らせる。さらに、肥料等のインパクトも減らし、農地や淡水の消費量を4分の1も節約できる。

「現在の農業システムでは、飼料作物が生産されますが、それを育てるにもために、農地、水、化石燃料、農薬、化学肥料、除草剤とあらゆる資源が投入資材が必要とされます。そして、メタンや厩肥を産み出すのです。一方、レンズ豆やエンドウといったマメ類はこの地球上で最も持続可能なタンパク質源です。育てるのにさして水がいりませんし、乾燥した厳しい気候条件下でも育ち、大気中から窒素を固定し、土壌中にそれを固定します。ですから、化学肥料もさしていりません。貧困国でも育ち、食料保障となり、天然肥料のようにふるまいます。ですから、最も頼りにしたいタンパクなのです」とパーマーさんも言う(1)

あなたにも地球にも健康を約束するゆるベジから始めたい

 温室効果化ガスの削減に一番つながるのは、ベジタリアンや野菜食である。けれども、シュプリングマン主任研究員はゆるベジでも「健康になれるし、環境の限界内にとどまるだけ十分なだけ温室効果ガスの排出量を減らせる」と指摘する。

「厳格な順に言えば、ビーガン食、次がベジタリアンですが、誰もがそうしたライフスタイルに興味を持つわけではありません。ですが、ゆるベジならば誰もがやれます」と、パーマーさんは言う。

Dawn Jackson Blatner.jpg『ゆるベジ食(The Flexitarian Diet)』の著者、栄養学者でもあるドーン・ジャクソン・ブラットナーさんによれば、ゆるベジは、適度な量の家禽類、魚、ミルクと卵、少量の赤肉、マメ類、大豆、ナッツを含め、多くの果物と野菜と植物ベースのタンパク質源を含む。

「それは完全に肉をあきらめなければならないことを意味しません。ですが、その摂取量をかなり減らせるのです」(1)

編集後記
 長谷川浩博士からは「日本の新聞を読んでいても世界の動きが見えてこない。そんな時間があるくらいならば『ガーディアン』を読んだ方がいい。ネットに掲載されているのだから」とのアドバイスをいただいている。で、サイトを見るとまさに地球温暖化が特集されており、かつ、気候変動に関する政府間パネルが「温暖化を回避するためにはもやは食い改めなければならん」とまで提言していることが飛び込んできた。本来ならば新聞の一面のトップで「食生活の是正勧告、温暖化回避のため飼料作物生産にご法度」ぐらいの記事が出ていてもいい。
 そして、一人一人の消費行動が変われば社会は動く。このサイトちまちまとこうした情報を発信しているのもそれを期待してのことだ。
 とはいえ、こんな長い文章を読まなくても素晴らしい動画のサイトがある『2分30秒で分かる、肉を減らすと地球環境が復活するワケ(English,日本語字幕)』である。
 コンパクトによくまとめられていると思うのだが「22,321 回」しか視聴されていない。N国の立花孝志参議院議員の「マツコ・デラックスをぶっ壊す!」が2日で129万回もアクセスされているのと比較すれば天と地の差である。よくも悪くも日本のいまの私たちの意識を反映した結果だと言えるだろう。

【用語】
世界気象機関(The World Meteorological Organization)
気候変動に関する政府間パネル(IPCC= Intergovernmental Panel on Climate Change)
グランサム気候変動環境研究所(Grantham Research Institute on Climate Change and the Environment)
未来の食のためのオックスフォード・マーティン・プログラム(Oxford Martin Programme on the Future of Food)
ゆるベジ(flexitarian diet)
レンズマメ(lentils)
ひよこ豆(chickpeas)
ササゲ(black beans)

【地名】
アラート(Alert)
ヌナブト準州(Nunavut)
ペテアマン氷塊(Petermann glacier)
ディスコ湾(Disko Bay)

【人名】
フレデライク・オットー(Friederike Otto)博士の画像はこのサイトより
マッテヤ・ハース(Matthias Huss)博士の画像はこのサイトより
ルス・モットラム(Ruth Mottram)博士の画像はこのサイトより
ルーク・トルセル(Luke Trusel)准教授の画像はこのサイトより
アントニオ・グテーレス(António Guterres)
ペッテリ・ターラス(Petteri Taalas)
ボブ・ウォード(Bob Ward)博士の画像はこのサイトより
マルコ・スプリングマン(Marco Springmann)主任研究員の画像はこのサイトより
シャロン・パーマー(Sharon palmer)さんの画像はこのサイトより
ドーン・ジャクソン・ブラットナー(Dawn Jackson Blatner)さんの画像はこのサイトより

(注)フレキシタリアン・ダイエット。米国で流行している。柔軟を意味する「フレキシブル(flexible)」と、菜食主義者を意味する「ベジタリアン(vegetarian)」を組み合わせた造語で2003年にヒットした。日本語では「ゆるベジ」と訳されている。

【引用文献】
(1) Lisa Drayer, Change your diet to combat climate change in 2019,CNN, Jan2, 2019.
(2) Jonathan Watts, Heatwaves amplify near-record levels of ice melt in northern hemisphere, 2 Aug 2019.
(3) Jonathan Watts, Record heatwave 'made much more likely' by human impact on climate, Guardian News, Fri 2 Aug 2019.
(4)Robin McKie, We must change food production to save the world, says leaked report, Cutting carbon from transport and energy ‘not enough’ IPCC finds, 4 Aug 2019.
posted by fidel at 07:13| Comment(1) | 気候変動 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
驚きました。今年の夏がこれほど熱いのは日本ばかりではなく,世界的な異常気象という現象の中で起こっていること、それを防ぐことは現状のままではかなり困難なこと、でも、できることは食生活の見直し、動物性食品の摂取中心から植物性エネルギー源中心にすること、という指摘など初めて知りました。
 まさに日本のメディアはこういうことを喫緊の問題として大きく報じるべきだと思います。
Posted by 石井明美 at 2019年08月09日 13:25
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