2019年11月09日

ゲノム編集の推進論理@〜なぜアグロエコロジーでは駄目なのか

有機ではなくなぜゲノム編集が必要なのか

 クリスパー・キャス9(CRISR-Cas9)遺伝子編集のような新たな育種テクノロジー(NBTs)に対して、有機農業運動は、それが不自然で環境や人間の健康にとって潜在的に有害だと主張して、強力に反対している。

 有機農業者、小売業者、業界団体は、遺伝子組み換え作物(GMO)に対するのと同じように遺伝子編集作物も中傷し始めている。最先端の育種技術の進歩に対して反対することは、主流の農業科学を軽蔑して、予防的な思考法をしていることに他ならない。

 けれども、さらに詳細にみれば、驚くべきことが見えてくる。ほとんどの有機農業生産者は、自分たちの「天然の製品」を慣行農産物と区別するためにテクノロジーを否定的に見ているのだが、育種の進歩に関して大きな誤解しており、結果として、競争面で自分たちをひどく不利にしているのかもしれないのだ。新たな育種テクノロジーは収量をあげることで食料の生産方法を急速に改善し始めている。それは、生産者にも消費者にもメリットがあるのだが、この妙技は、有機農業の栽培方法ではとうてい真似できないものなのだ。

ゲノム編集革命

 その新たな育種技術とは、作物や家畜の特定のゲノムを修正できる「ゲノム編集」と遺伝子サイレンシング技術からなっている。2005年に科学者たちがタバコの遺伝子を編集するために用いたときからこのテクノロジーは登場しはじめたのだが、それ以来、何十年も開発されてきた。いま、世界中の科学者たちが、このテクノロジーを用いて何百もの作物を開発している。

 いまようやく手が届くようになってきたこの農業の進歩は、ショッキングなほどだ。例えば、最も良く知られているのは、CRISPRだが、それは深刻な植物病を根絶して、農民たちが毎年苦しめられている作物の損失をなくせる可能性がある。

 Citrus-Greening-Disease.jpg例えば、フロリダや世界中の果樹園で問題となるカンキツグリーニング病だ。フロリダでは、この細菌病でオレンジの産業が被害を受けてきた。1997〜1998年の2億4400万箱が2015〜2016年には9420万箱にまで落ち込む。

 この病気が特定されて以来、カンキツグリーニング病はオレンジとグレープフルーツの生産で46億4000万ドルが失われ、労働収入では17億6000万ドル、3400人以上の雇用が失われたとされている。米国の錆菌も毎年、収穫の損失で約50億ドルが失われている。そして、科学者は、いずれの病気もゲノム編集での解決策に取り組んでいる。

 カンキツグリーニング病に関しては、どの遺伝子が病気を引き起こすタンパク質の「スイッチを入れるのか」を科学者は特定している。この原因遺伝子を除去するか、それを沈黙させるゲノム編集テクノロジーを利用することは希望となろう。科学者は、錆病の病原体に対して耐性を示す小麦の遺伝子も発見している。ゲノム編集はこうした遺伝子の「スイッチを入れる」ことに用いられるかもしれない。潜在的に小麦に病気に対する免疫がもたらされる。

 開発途上国における気候変動の影響に対して農業を適応させる助けにもなろう。旱魃耐性作物だけでなく、必要な栄養的を満たす助けとして、NBTsは栄養成分強化された作物の成長も促す。

 けれども、環境のメリットはそこにとどまらない。非褐色にならない果物や野菜、例えば、北極アップルは、世界の食品廃棄物問題に対処するのを助ける。そして、大気中からの窒素固定できるゲノム編集作物は有害な化学肥料の使用を減らすことができる。

墓穴を掘っている有機産業

 ゲノム編集の批判者たちは、1990年代に始まったGMOへのレッテル貼と同じ議論を単純に繰り返している。ゲノム編集された食べ物を人間や家畜が消費しても安全であって、環境に対して脅威をもたらさないエビデンスを繰り返し無視している。そして、有機食品業界は、ありもしない危険性を打ち出して、市民を恐れさせるためのデマ戦略を使っている。

Emma-HockridgeS.jpg 有機農業のシンパ、イギリスの土壌協会のエマ・ホックリッジさんはこういう。

「GMOと同じように、こうした新たな遺伝子編集テクノロジーが不確実性やリスクを引き起こすことを科学研究は長く示してきた。この新たな育種テクノロジーがGMOであって、有機農業や有機農産物では禁じられていることを常にはっきりとさせてきた。ゲノム編集とは、新たな生物を創り出すために研究所でゲノムを操作し変えることだ。これはまさしく遺伝子工学の定義ではないか。DNAの遺伝子組み換えとして、ゲノム編集は類似した不確実性や想定外の結果をもたらす」

 土壌協会だけではない。実質上、あらゆる主な有機農業組織が、新育種テクノロジーは有機農産物の栽培においては決して許されるべきではないとしている。120カ国を代表して、IFOAMはこう説明する。

「近年の新たな遺伝子工学技術の急速な発展や普及によって、地球の生物多様性の遺伝子の構造が干渉され、これまでの社会が目にしたこともなかった評価もされず十分に理解もされていない結果がもたらされている。遺伝子工学プロセスにいかなるインパクトがあるのか知るよしもない。こうしたテクノロジーのほとんどは、その製造プロセスの様々なステップで数多くのオフターゲットを引き起こすかもしれない。それはもとより危険なものだ」

 米農務省の全国有機基準委員会が2016年と2017年に、あらゆるゲノム編集作物が有機認証から除かれるとしたのは、ゲノム編集に反対するこのコンセンサスがあるためだ。その製品を区別して、バイテクに対して慎重な消費者にアピールする決定がなされた。

 けれども、このマーケティング戦略は、この産業が信じているほど多く意味をなさない。有機農業では慣行農場で達成できる収穫に到達するにはより多くの農地が必要となるからだ。マギル大学が2012年に実施した研究から、有機農業の収量が慣行農場で達成できるよりも平均して25%も低いことが示されている。同様に、2018年にネイチャーに発表された研究は、温室効果ガスの排出量を研究したのだが、同量の食料を育てるうえで、有機農業では慣行農業よりも多くの農地が必要となることが明らかになった。この生産のギャップはゲノム編集作物が市場に入ることによって、埋められそうなのだ。

消費者に重点をおいた製品

 同様にゲノム編集は、需要側で数十億ドル有機産業を弱める準備ができている。現在では、有機と慣行はこと栄養に関してはほぼ同一だ。唯一の違いは、有機産業がより自然であるように消費者にその製品をうまく見せかけているだけだ。けれども、ゲノム編集によって、有機食品に欠落している質的な利益をもたらせば、この主観的な区別さえ消えるかもしれない。

 ミネアポリスに拠点を置くバイオテク企業カリクスト社は、より健康的な油を生産するゲノム編集されたダイズ豆をすでに開発している。そのレストランを2019年にデビューさせた。同社は2020年には高線維の小麦品種の商業化を期待している。

 もう一つのバイオ企業アンフォラ社は、高タンパクのダイズを開発している。ぺワワイズ社は「ゲノム編集を用いた新作物では、味覚改善にテクノロジーを用いられることができ、貯蔵期間も増やせ、有効性の季節を延ばせる」と主張する。

 ガーディアンが2018年7月にこう報告する。

「人々がより多くの農産物を食べられるように、私どもは、生産物をより健康で持続可能で便利なものにすることに関心をいだいています」

Haven-Baker.jpg ペアワイズ社の創業者、ヘイヴン・ベーカー博士は、こうしたアプローチは消費者の栄養を含めた摂取量を押し上げられるだけでなく、食品廃棄物を減らすこともでき、気候変動に必要とされる適応力も産み出すことができると言う。

「私どもは、消費者と農業システムにとって重要な問題を解決しようとしているのです」

結論

 過度の規制によって、NBTsの進展を邪魔しないとの米政府の決定は、今後、10年で市場にもたらされるありとあらゆる新たなゲノム編集食品につながるであろう。こうした強化された製品には、消費者を誘惑する性質がある。けれども、有機産業は、NBTsを受け入れる代わりに市民をテクノロジーから遠ざけようとしている。この戦略はある程度はGMOでは機能した。けれども、それを消費者のためになるゲノム編集作物にまで広げることは、有機産業を犠牲にするかもしれない(1)

編集後記

 彼を知り己を知れば百戦殆からず。孫子ではないが、ゲノム編集の推進ページを見れば、いろんなことが見えてくる。

 マザー・テレサの明言に「愛の反対は、憎しみではなく無関心です」というものがある。日本では、アグロエコロジーも地球温暖化も食べ物からの栄養価の損失も話題にならない。つまり、関心さえもたれていない。

 地球少女、「アルジュナ」ならぬ、グレタさんの登場によって、ようやく、地球温暖化だけが関心がもたれるようになりつつある。それも、皮肉なことに、グレタさんが憎しみをもって叩かれ、温暖化の最大の原因として懸念されるビーフステーキを食べるというパフォーマンスをしてのけた小泉ジュニア環境相がセクシーだとして国内メディアから大絶賛されることによってだ。ちなみに、低炭素化社会構築に消極的な国に対してNGOがバッドジョークとして与える「化石誉」を日本は受賞し続けている。

 話を戻す。このゲノム推進記事を呼んでまず、驚いたのは、マムズ・アクロス・アメリカやアグロエコロジーというキーワードが登場し、憎しみをもって叩かれていることだ。曰く、有機農業ではなぜ駄目なのか。収量が低いから大量の農地を必要とし結果として、温暖化を招いてしまうからだ。栄養価が低いからミネラル不足で健康障害を招いてしまうからだ。なればこそ、収量が高く栄養価も高いゲノム編集が必要なのだという論法が展開されている。これは、逆説的ながら、温暖化の深刻さと栄養価不足の問題を人々が意識させることにつながっている。

 さらに、化学合成農薬も天然農薬も安全ではなく、危険であることが前提とされている。それはいい。けれども、この論理で、とりわけ、恐ろしいと思うのは、害虫防除だ。有機であっても天然素材として硫酸銅(ボルドー液は硫酸銅と消石灰の混合溶液)のように危険な農薬が使われている。けれども、ゲノム編集テクノロジーを使えば、害虫の雄を不妊に改造できるから、この地球上から害虫そのものを抹消することができる。だから、農家は安心して無農薬農業ができるとの論理が展開されているか。マジか。あんたたち本気なのか?。まさに、ターミネーターの世界そのものではないか。

 さらに、どんなテクノロジーが開発されようとしているのかを見て行くと、面白いことがわかってくる。オイレン酸を多く含む健康により大豆油が米国ではすでにゲノム編集されて流通しているのだけれども、これを開発したカリクスト社の社長は元モンサントのCEOであった人物である。また、拙稿に登場したペアワイズ社の創業者、ヘイブン・ベイカー博士は、ゲノム編集でのフルーツ開発に取り組んでいるのだが、2018年3月にこのペアワイズ社に1億2500万ドルを出資すると発表したのもモンサントである。そして、ペアワイズ社のCEOに就任したのはモンサントのグローバル・バイオテクノロジーの副社長であったトム・アダムス(Tom Adams)氏である。なんのことはない同じ穴の狢なのだ。バイエルは、モンサントと遺伝子組み換え作物へのネガティブなイメージをなんとか抹消しようとし、モンサントの名前を消すことを戦略の一部としている(2)。こうした相手側の戦略をみたうえで、いま何が起っているのかを知るメディアリテラシーが求められているといっていい。

【用語】
遺伝子-サイレンシング技術(gene-silencing technologies)
予防思考(precautionary mindset)
錆病(Wheat rust)
カンキツグリーニング病(Citrus greening disease)の画像はこのサイトより
栄養成分強化(biofortified)
新たな育種テクノロジー(new plant breeding techniques =NBTs)
オフターゲット(off target)
全国有機基準委員会(National Organic Standards Board)
マギル大学(McGill University)
カリクスト(Calyxt)社
アンフォラ(Amfora)社
ペアワイズ(Pairwise)社
【人名】
エマ・ホックリッジ(Emma Hockridge)さんの画像はこのサイトより
ヘブン・ベーカー(Haven Baker)博士の画像はこのサイトより

【引用文献】
(1) Steven Cerier, Organic food movement ‘shoots itself in the foot’ by rejecting CRISPR gene editing, August 20, 2019.
(2) 2018年6月8日: Erin Brodwin、「7兆円を超える大型買収、100年以上続いた「モンサント」の名を消すバイエルの思惑」BusinessInsider
posted by fidel at 08:50| Comment(0) | GMO | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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